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13 Oct 2020
Skoltech (Skolkovo Institute of Science and Technology)およびモスクワ州立大学の教授であるOlga Dontsova氏が主導したSkoltechの研究者らが、肝臓に特異的な新たなノンコーディングRNAを発見した。
研究者らは健常者の肝臓とがん患者の肝臓のRNA量を調査し、バイオマーカーとしてのRNA量の使用可能性を提案し、その結果、多様な肝がんに対する術後診断のバイオマーカーとして有用な新たなパネルを作成した。
本研究はJournal of Cancer Research誌で発表された。本研究は、Russian Science Foundation (RSF)の資金援助を受けて行われた。
腫瘍バイオマーカーは、がん患者の識別に役立つ。
がん患者と健常者で異なる濃度を示す物質であれば、腫瘍バイオマーカーとして役立つ可能性がある。タンパク質をコードしないが、細胞の活動を調整するRNAであるノンコーディングRNAもその一つである。
ノンコーディングRNAは、すべての体細胞に存在するユニバーサルRNAと、特定の臓器や組織にみられる組織特異的RNAに分類される。
Skoltechの研究者らは、肝臓でバイオマーカーとなりうるノンコーディングRNAを発見した。
これらの新しい分子はHELIS (HEalthy LIver Specific)と名付けられた。疾病の指標である既存の腫瘍マーカーとは異なり、このマーカーは肝臓の健康度を示し、ある意味では抗腫瘍マーカーともいえるからである。
Skoltech Center for Life Sciences (CLS) の研究者であり、本研究の筆頭著者であるOlga Burenina氏は、この点に優位性があると考えている。「多くの既存腫瘍マーカーは常にがんを明らかにするとはいえず、肝臓でいえば肝硬変や肝炎など、非がん性疾患でも高値を示す場合がある。その点、「肝臓の健康度」を示すマーカーは、より多くの情報をもたらす。というのも、がん細胞でHELISが正常に産生されないなどの何かしらの機能不全が生じた場合には、問題は容易には解決しない可能性があるからだ」
共同研究に関与した他の組織には、ロシア保健・社会開発省Blokhin Russian Cancer Research Centerと6種類の肝臓がんの術後検体を提供したPetrovsky National Research Centre of Surgeryが含まれていた。
研究者らは、すべての検体でHELIS値が通常のレベルを大きく下まわって減少したことを示すことに成功した。なお、数種類のがんではHELIS値が完全にゼロになった。
次に、研究者らはこれらの検体で既知のノンコーディングRNAの特性を調べ、さらに3つの潜在的な腫瘍マーカーを選択した。
その結果、さまざまな種類の肝癌で異なった形で発現し、さらに重要点として良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別に役立つ4つのバイオマーカーのパネルを同定した。
「今のところ、それだけで肝がんを示す診断マーカーは存在しない。そのため、医師は主に超音波検査やCTスキャンの結果を基に診断し、がんのタイプにかかわらず手術で全ての腫瘍を切除する。生検が行われることはまれであり、最終診断は術後10~14日後に判明する病理学検査の結果によって下されることになる」とOlga Burenina氏は解説した。
このバイオマーカーの新しいパネルは、術後の肝腫瘍検体に基づく迅速な予備診断に役立つとともに、診断があいまいな臨床症例があった場合に追加の分析手段として役に立つ可能性がある。
https://ecancer.org/en/news/18738-new-biomarker-for-liver-cancer-diagnosis
(2020年10月1日公開)