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25 Nov 2020
肺がん患者の肺における口腔共生微生物の増加は、進行期の疾患、予後の悪化、及び腫瘍進行と関連するものであった。
米国がん学会のCancer Discovery誌で、本研究が発表されている。
「肺は長い間無菌だと考えられていたが、通常は口腔内に認められる口腔共生微生物が無意識の吸引によってしばしば肺に入ることが現在では分かっている」とSegal氏は述べている。
腸内微生物叢ががんに影響を及ぼすことは多くの研究で証明されてきたが、肺がんの微生物叢の影響については依然として不明である。
Segal氏と同僚らによる以前の研究で明らかになったことは、肺に微生物が存在すると免疫反応が活発化する可能性があり、それにより免疫細胞やサイトカインであるIL-17などの炎症性タンパク質が動員されることであるが、このことで肺がんの発症が調節されることも示されている。
「IL-17や炎症が肺がんに影響を与えることが分かっていることを考えると、肺内に口腔共生生物が増加することでIL-17型の炎症が促され、肺がんの進行や予後に影響があるのかを見極めることに興味を持った」とSegal氏は説明した。
本研究では、Segal氏らが臨床気管支鏡検査による診断で得られた検体を用いて、未治療の成人肺がん患者83名の肺微生物叢を分析した。
検体を分析して、微生物の組成を特定し、いずれの遺伝子が肺組織に発現したのかを判定した。
彼らは、進行期の肺がん患者(ステージ3b~4)では、早期の患者(ステージ1~3a)に比べ、肺内の口腔共生生物が増加していることに気付いた。
さらに、肺内の口腔共生生物の増加は、腫瘍のステージを調整した後でさえ生存率の低下と関連していた。
予後不良は、肺微生物叢中のベイロネラ、プレボテラ、及び連鎖球菌属の細菌の増加と関連しており、腫瘍の進行は、ベイロネラ、プレボテラ、連鎖球菌、及びロチア属の細菌の増加と関連していた。
疾患が早期の患者では、ベイロネラ、プレボテラ、及び連鎖球菌の増加は、p53、PI3K/PTEN、ERK、及びIL-6/IL-8のシグナル伝達経路の活性化と関連していた。
進行期の肺がん患者で増加していることが判明したベイロネラ株は、IL-17、細胞接着分子、サイトカイン、及び成長因子の発現、また、TNF、PI3K-AKT、及びJAK-STATシグナル伝達経路の活性化に関連していた。
Segal氏らはまた、肺がんマウスモデルを用いて肺微生物叢の影響を検討した。
彼らは口腔共生生物が増加したモデルを作るため、肺がんマウスの肺内にベイロネラ パルブラを播種した。
これにより生存率低下、体重減少、及び腫瘍量の増加がもたらされ、また、IL-17や他の炎症性タンパク質の発現の増加、免疫抑制細胞の動員の増加、及び炎症経路の活性化の増加が伴った。
肺がんの発症機序におけるIL-17の役割を理解するため、Segal氏らはベイロネラ パルブラを増加させたマウスにIL-17を標的とした抗体を投与し、その結果、対照を投与したマウスに比べ腫瘍量が有意に減少した。
「我々の研究結果を考慮すると、肺微生物叢に変化を加えることは、予後を予測する際の、または治療のために患者を分類する際のバイオマーカーとして使用できる可能性がある」とSegal氏は述べている。
「もう1つの素晴らしい可能性は、がん治療の一形態として微生物叢自体、または微生物に対する宿主の反応を標的とすることである。IL-17に対する抗体を用いた我々の研究結果は、このことが有効な戦略となる可能性があることを示唆している」
本研究の限界として、今回のサンプルサイズでは、患者が受けている治療に基づいて患者をサブグループにさらに分類することができなかったことがある。
また、肺微生物叢の検体は治療前のみに採取したため、治療による変化は評価できなかった。
(2020年11月11日公開)