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01 Jun 2021
膵臓の慢性炎症は、ほとんど解明されていない原因因子による衰弱性の疾患である。現在、大阪大学の研究チームが、分子経路を阻害するものを特定し、強く待ち望まれてきた有効な治療戦略の情報を提供し得る根本的なメカニズムを明らかにしている。
膵臓は、血糖値を微調整するインスリンやグルカゴンを含むさまざまなホルモンの消化と産生において二重の役割をもつ重要な臓器である。
慢性膵炎(CP)の特徴は、縮化を引き起こす腺の炎症、腺性の要素の線維組織による置換(線維症)、および機能喪失である。
患者は、腹部症状、消化不良、およびそれに伴う栄養障害に悩まされ、糖尿病や場合によっては、膵がんを発症する可能性がある。アルコール乱用や消化酵素の遺伝子変異が引き金となってCPが生じることは知られているが、その根底にある分子機序については依然として解明されていない。
これに対し、研究チームは、細胞間コミュニケーションの2つの分子チャネルに目を向けた。具体的には、膵がんの進展に影響するPI3Kシグナル伝達経路とHippoシグナル伝達経路と呼ばれるものである。
共同筆頭著者である田村猛氏は、研究戦略について次のように説明している。「我々の研究では、CPの実験マウスモデルにおいて、PI3Kシグナル伝達経路とHippoシグナル伝達経路の2つの分子成分であるPTENとSAV1の発現が膵組織で低下することが明らかになったほか、これらの2つの分子について膵臓特異的な遺伝子欠損マウスを作製したところ、CPを自然に発症することが観察された」
また、共同筆頭著者の一人である小玉尚宏氏は、「実験では、CPの発症における結合組織増殖因子(CTGF)の重要な役割を確定することができた。PTENおよびSAV1の阻害はCTGFを増加させ、腺房導管化生(ADM)と呼ばれる腺細胞型の病理学的形質転換を誘導する。また、CP例で線維症を進展させる膵臓の星状細胞やマクロファージも活性化させる」と詳述している。これらは、発がんの現象を誘発する可能性のある膵臓内の慢性炎症の特徴である。
さらに、本研究グループは、動物モデルにおいてCTGF阻害が炎症、線維症、およびCPのADM形成を緩和することを示すことに成功し、これらの実験結果をヒトの膵組織の分析により確認することができた。
本研究グループの所見では、膵臓内での慢性炎症の発症および進行を増強する分子機序が詳しく述べられており、慢性膵炎に対する有効な治療法を模索する上でCTGFが有益な新たな治療標的となる可能性があることを示唆している。
(2021年5月25日公開)