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07 Dec 2021
HATファミリーに属すタンパク質は、細胞膜全体にアミノ酸を輸送するため生命体には不可欠である。
このファミリーメンバーは実質的には同一ではあるが、一部にはある特定のアミノ酸は輸送するが他のアミノ酸は輸送しないものがある。
この特性により、細胞増殖や神経機能、結果的にはがんやアルツハイマー病のような神経変性状態の疾患に関連する特定の機能への関与を判定することができる。
いったい、何がこの機能に特異性および多様性を与えているのだろうか?
これは、本研究を主導したスペイン国立がん研究センター(CNIO)および生物医学研究所(IRB)の研究者らが投げかける論題の1つであり、その答えが米国科学アカデミー(PNAS)学術誌で今週公開された。
これらのタンパク質の計算機モデル化や変異体のデザインと、併用で用いられる低温電子顕微鏡法のような最新高解像度構造技術のおかげで、研究者らはこのタンパク質ファミリーの粘膜の1つの構造を原子について詳細に観察し、その機能を解読することができるようになった。
このタンパク質ファミリーの特定領域にあるわずかな残留物がどのように結合する特定のアミノ酸を選定し、それによりそのタンパク質が特定の生理的機能に関与する原因となるのかということが、本研究結果により明らかとされている。
この情報を武器に、研究者たちは今、がんやアルツハイマー病のような神経変性障害などの深刻な健康上の問題を提起する状態に特に関心を寄せ、輸送たんぱく質のHATファミリーに関与する疾患のための新療法や診断ツールを見つけるという課題に直面している。
生命体の基本的構成要素であるアミノ酸は細胞に出入りすることで、細胞が増殖、分裂して、その機能の発達を可能にする。
細胞に出入りするこの動きは、とりわけこのHATファミリーのタンパク質により形成されている細胞粘膜に組み込まれているゲートがあるため生じる。
HATタンパク質は、構造面では実質的には同一であるが、ある特定のアミノ酸のみを輸送し他を輸送しないものがあり、それにより細胞増殖、がんのような病気の役割、神経機能、コカインのような物質を含む有害物質の輸送への関与など、このファミリー特有の機能を各ファミリーメンバーに付与しているのである。
この機能の特性を理解するために、この重要なタンパク質ファミリーの3D構造の研究に着手した。
「X線を利用した方法など、タンパク質の構造の特定に用いられた古典的手法では生体膜に組み込まれているタンパク質に対して限界があり、多くの疑問が解明されていないままである」と述べるのは、CNIOのDNA損傷応答グループ、巨大分子複合体の責任者で、このセンターの構造生物学プログラムディレクターで、本研究の共著者であるOsca Llorca氏である。
「低温電子顕微鏡法による構造の分解を、分子動力学計算と機能試験と組み合わせることで、アミノ酸輸送の機能を解明できるようにする多くの可能性を秘めた実験的構造基盤がもたらされる。この場合、我々はこの技術を、これらのタンパク質が特定のアミノ酸のみを輸送するようにする分子メカニズムの特定に応用した」と述べるのは、IRBバルセロナ、アミノ酸と疾病輸送体研究所の責任者、バルセロナ大学教授、およびCIBERERユニットリーダーであるManuel Palacin氏である。
低温電子顕微鏡法のおかげで、Llorca氏が国際的エキスパートであるタンパク質の分子構造の可視化の分野は、現在3D構造の黄金時代として把握している内容に向かって大きな一歩を踏み出した。
この新テクノロジーは2017年にノーベル化学賞を受賞し、今までにないやり方での生物学的プロセスの観察に用いられただけではなく、がんやその他の疾患治療に役立つ新成分や新薬開発の速度を速めることに貢献している。
本研究では低温電子顕微鏡法を用い、研究者らは原子分解能でHATファミリーメンバーの構造を可視化することができ、これらのタンパク質がアミノ酸に結合する場所、ならびにこの識別により生じるメカニズムの詳細を特定する。
この原子の詳細は、これらのタンパク質のわずかな残留が結合するアミノ酸を特定するだけではなく、それにより特有の機能をも特定することを明らかにした。
さらに、本試験はさまざまなファミリーメンバーのこれらの位置にある他の残留物質の代替物がどのようにこの識別特性を改変し、特定のアミノ酸のみを輸送する原因となるのかを実証している。
本研究結果により、これらのタンパク質の特有の領域に作用する可能性がある化合物質に労力を向けることができるようになり、がんやアルツハイマー病のような神経変性疾患等、それらが関与する障害を管理することができるようになる。
(2021年11月29日公開)