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18 Apr 2022
前立腺がんに対する前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングの精度は、がんと関連しないPSA値の変化を引き起こす遺伝的要因を考慮することで向上する可能性があることが、 AACR Annual Meeting 2022で発表されたデータにより明らかになった。
「PSA値は、前立腺がんの主要な診断バイオマーカーである。この検査は広く利用されているが、現在は正式なスクリーニングプログラムの一部として実施されていない」と、発表者であるUniversity of California のSan Francisco校疫学・生物統計学科博士研究員Linda Kachuri氏は述べている。
「PSA検査は感度と特異度が低いため、しばしば潜在的な疾患を検出したり、場合によっては浸潤性腫瘍を見落としたりすることがある。
Kachuri氏らは、ある種の遺伝的要因が、がんに起因しないPSA値の変動を引き起こす可能性があるかどうか、また、そのような正常な変動を考慮することが、このバイオマーカーの診断能力を向上させるのに役立つかどうかを研究した。
研究グループは、米国、英国、スウェーデンの5つのコホートのデータを用いて、前立腺がんと診断されていない男性95,000人以上のPSAの大規模なゲノムワイド関連研究を実施した。
研究者らは、82の新しい変異を含む128のPSA関連変異を同定し、それを用いてPSA値の多遺伝子スコアを構築した。この多遺伝子スコアは、PSA値が高いことに対する各個人の遺伝的素因を総合的に示すものであった。
著者らは、PCPTおよびSELECTがん予防試験に登録された2つのコホート(それぞれ5,737人と22,247人)に適用して、多遺伝子スコアを検証した。
PSA多遺伝子スコアは、PCPTコホートおよびSELECTコホートにおけるベースラインPSA値のばらつきのそれぞれ7.3%および8.7%を占めた。重要なのは、いずれのコホートにおいても、このスコアが前立腺がんと関連していないことであり、このスコアが良性のPSA変動値を反映していることが確認された。
多遺伝子スコアが臨床的に重大な疾患の発見を改善し、過剰診断を減らすことができるかどうかを調べるため、研究者らは多遺伝子スコア補正係数を実際のKaiser Permanenteコホートに適用し、生検照会に使われるPSA閾値に対するこの補正の効果を推計した。
「一人ひとりのPSA値を、その人独自の多遺伝子スコアに基づいて調整した」と、Kachuri氏は説明する。
「この方法で個別化されたPSA値は、遺伝の影響を補正しているため、前立腺がんによるPSAの変化を明らかにする可能性が高い」と述べた。
「PSA値に補正を加えることで、前立腺がんでない症例で生検陰性の20%を回避できた可能性があり、照会判断の精度が向上したようにみえる。
また、低悪性度病変症例では生検が15.7%減少し、生検を回避できた患者の71%を占めた。
さらに、PCPTおよびSELECTの両コホートにおいて、遺伝的に調整されたPSA値は、調整されていないPSA値よりも侵攻性前立腺がんと強固に関連していた。
「PSA値の遺伝子補正は、不必要な生検を減らし、より侵襲性の高い腫瘍を検出する能力を向上させる可能性があることを示した」と、Kachuri氏はコメントしている。
「今回の知見は、有益なスクリーニングガイドラインを作成し、PSAスクリーニングにおける診断上のグレーゾーンを減らすための一歩となることを期待している」
(2022年4月11日公開)