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07 Mar 2023
最も致命的な原発性脳腫瘍である膠芽腫患者に対して、がん細胞に対する免疫反応を促進する免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる免疫療法薬が有効である可能性がある。
しかし、この治療法では脳の腫脹、つまり脳浮腫を起こすことがある。
現在、こうした脳浮腫は免疫抑制作用の強いステロイド剤の投与によってコントロールされており、免疫療法の効果が打ち消されている。
したがって免疫抑制を生じることなく安全に浮腫をコントロールできる新薬が緊急に必要とされている。
マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究者らを中心とした新たな研究により、血圧降下剤ロサルタンは免疫療法による浮腫を予防できることが明らかになった。
PNAS誌に掲載された本知見は、患者にロサルタンを投与することで脳に有害事象を生じることなく免疫チェックポイント阻害剤を継続できる可能性があることを示唆している。
研究者らは、がんモデルマウス、単一細胞RNA配列解析、免疫細胞遮断試験、画像診断解析などを用いて、免疫療法による浮腫は脳腫瘍によって生じる血液脳関門の変化である血液腫瘍関門を破壊する炎症反応に起因することを明らかにした。
この反応には、マトリックスメタロプロテアーゼ14および15という酵素が関与しており、これらの酵素は腫瘍に関連した血管の内側の細胞に存在し、血管からの漏出を誘発することで浮腫を引き起こす。
実験により、ロサルタンはこれらの酵素の発現を抑え、免疫療法に伴う浮腫を予防できることが明らかになった。
ロサルタンは腫瘍環境において、体の抗腫瘍免疫反応を強化する他の多くの有益な効果も有していた。
ロサルタンを免疫チェックポイント阻害剤と併用することで膠芽腫マウスモデルの生存率が改善され、マウスの20%が治癒し、化学放射線療法および外科手術を含む標準治療と併用すると生存率は最大40%に上昇した。
「脳浮腫は、それ自体が膠芽腫のような原発性脳腫瘍の特徴である。膠芽腫患者に、免疫チェックポイント阻害剤を投与すると脳浮腫は平均で約20%増加することが分かった。これは患者にとって神経学的に有害であるだけでなく、致死的となる可能性さえある」と、マサチューセッツ総合病院腫瘍生物学E L Steele研究所の所長であり上席著者であるRakesh K Jain博士とハーバード大学医学部放射線腫瘍学のAndrew Werk Cook教授は述べた。
「浮腫が生じた患者には大抵、脳の腫脹を抑えるためにステロイドを投与するが、これらの薬剤には強い免疫抑制作用があるため免疫療法の効果を打ち消してしまう。したがって、我々は、免疫療法によって引き起こされる浮腫の根本的なメカニズムに対処し、さらに免疫チェックポイント阻害療法に対する腫瘍微小環境が感作するよう浮腫を制御する実行可能な治療選択肢を特定した。」
Jain氏は、ロサルタンは安全で有効であり、価格が手頃な薬剤であるため、膠芽腫患者に対して免疫療法との併用が容易であると述べた。
2020年、本研究チームは免疫療法への反応に関するバイオマーカーを特定するアプローチをPNAS誌に発表した。研究者らは今回、この知見を基にしてこうした併用療法が最も有効となる患者の予測を可能にする腫瘍環境の要因も特定した。