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22 Mar 2023
キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法と呼ばれる免疫療法は、複数の種類の血液がんの治療に革命をもたらしたが、最も致命的な原発性脳腫瘍である膠芽腫やその他の固形がんに対する効果は限定的であった。
Massachusetts General Hospital (MGH)の研究者らが主導し、Journal for ImmunoTherapy of Cancer 誌に3月10日に掲載された新研究は、固形がんの血管の異常を修正する薬剤が、CAR-T細胞療法の送達と機能を改善できることを示唆している。
CAR-T細胞療法では、患者の血液から採取した免疫細胞は、がん細胞膜上の特定のタンパク質に結合するよう細胞に指示する受容体の遺伝子を加えることによって、実験室で改変される。
「CAR-T療法が固形がんに対してうまく機能しない主な理由の一つは、静脈内投与された細胞は腫瘍の浸潤端か腫瘍の限られた領域のみにしか移動できないことである」と、MGHのE.L. Steele Laboratories for Tumour Biologyの所長であり、Harvard Medical SchoolのAndrew Werk Cook Professor of Radiation Oncology である上級著者Rakesh K. Jain氏は述べる。
「また、腫瘍は免疫抑制的な環境を周囲に作り出し、血液を介して静脈内投与されるCAR-T療法や他の抗がん剤治療から腫瘍を守っている」
Jain氏らは以前、もともとは新しい血管の成長を阻害するために開発された血管新生阻害剤と呼ばれる薬剤で腫瘍の血管を 「正常化」 することで、体内で自然に作られた免疫細胞の運搬と抗がん機能を改善できることを示した。
「そこで、血管内皮増殖因子(VEGF)と呼ばれる重要な血管新生分子を阻害する抗体を用いて膠芽腫の血管を正常化することにより、CAR-T細胞の浸潤を改善し、腫瘍微小環境の異常がもたらす抵抗メカニズムを克服できるかどうかを検討した」と、Jain氏は説明する。
最先端のライブイメージング技術により、CAR-T細胞の腫瘍への移動をリアルタイムで追跡した結果、マウスにおいて、VEGFに対する抗体を投与することで、膠芽腫腫瘍へのCAR-T細胞の浸潤の改善を発見した。
また、膠芽腫のマウスでは、腫瘍の成長を抑制し、生存期間を延長した。
「抗VEGF抗体であるベバシズマブが膠芽腫患者に対して承認されていること、また、いくつかのCAR-T療法が患者を対象に試験されていることを考えると、今回の結果は、抗VEGF抗体のような血管新生阻害剤と現在のCAR-T療法との併用を試験する説得力のある理由がある」と、Jain氏は述べている。
「さらに、われわれのアプローチは、他の固形がんに対するCAR-T療法を改善する可能性もある。そのため、他の腫瘍にも研究を広げていく予定である」
(2023年3月14日公開)