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05 Dec 2016
記憶や精神錯乱、またその他の認知的問題が現れる前の前臨床段階で、アルツハイマー病を見つけるためのより効果的な方法の必要性が急務である。この段階では人々は症状がないが、異常なタンパク質はすでに脳の至るところに堆積している。現在、研究チームは、前臨床段階において、これまでに認可された化学物質よりも、これらの異常タンパク質沈着物の一部を効果的に同定できる可能性がある化学物質を開発しテストしてきた。
Washington University School of Medicine (米国、ミズーリ州)の研究者らは、Scientific Reports誌に発表された本研究について述べた。
アルツハイマー病は高齢者における認知症の大半を占める。認知症は、脳内の漸進的変化のために考える、思い出す、判断する能力が次第に衰える。
最初は、認知症の症状は軽度であり、日常機能にほとんど影響がないが、症状がひどくなると、最終的には自立した生活を送れず、最も基本的な日々の仕事の支援を他者に頼らなければならない。
現在、世界では4,600万人の人が認知症とともに生活している。よい治療や治療介入がない場合には、この数字は、2050年までに1億3,150万人になると予想されている。
アルツハイマー病の人たちは、症状が早く現れる疾患の種類もあるが、通常60歳半ばに最初の症状を発症する。
推測は様々であるが、専門家によれば、米国ではアルツハイマー病とともに生きる人々は500万人以上いるとされる。
前臨床における診断の必要性
科学者らは、今もなおアルツハイマー病を発症する人たちの脳で起こる複雑な変化を理解しようとしている。しかしながら、記憶と判断の問題が始まる、少なくとも10年前にはこれらが始まる可能性があるように思える。
人々が何の症状もないように見える、この前段階に、アミロイドβとタウタンパク質の異常な沈着は脳の至るところにプラークともつれを形成している。最終的には、これらは脳細胞が機能せず、互いに関係を失い、死ぬ程度まで脳を塞ぐ。
彼らの研究報告でアルツハイマー病の臨床的症状を反転する薬剤試験の失敗は、効果的であろう治療にとって、前臨床段階で開始しなければならないことを示唆していると、著者らは説明する。
「それゆえ、前臨床段階で存在するバイオマーカーを同定し、正確に確認するための必要性が急務である」と彼らは忠告する。
彼らの研究では、これまで承認された化合物よりもアミロイドβタンパク質プラークを看破しやすいように見える
Fluselenamylと呼ばれる新しい化合物をテーマにしている。
研究者らは、この物質に放射性原子を付着させることで、生体脳におけるその位置がPETスキャンで観察されるのではないかと考えている。
放射線学、神経学、医用生体工学教授であり、上席著者であるVijay Sharma氏は、以下のように述べた。
「Fluselenamylは従来の化合物よりさらに精度が高いと同時に、より特異的でありえる」
広範性のアミロイドβプラークを見つける
アミロイドプラークは、広範性かコンパクトかのどちらかであると研究者らは言う。コンパクトな場合は、アルツハイマー病に長期間関係している、しかし広範性のプラークはアルツハイマー病でなくてもあっても、人々の脳内にみられるので、疾患の兆候ではないと信じられている。
しかしながら、Sharma氏は、広範性のアミロイドプラークはアルツハイマー病の最も早い段階を示している可能性があると考えている。氏は以下のように述べた。
「それは、アルツハイマー病の病理の発展において比較的研究されてきた領域である。これまでに承認された薬剤は広範性のプラークを検出しないので、動物や患者においてこの見解を調査するための信頼できる非侵襲的な画像手段がない。私たちの化合物は広範性のプラークの役割を研究するために使われるかもしれない」
本研究で、Sharma氏らはFluselenamylがアミロイドβプラークの検出ためにFDAに承認された3つのほかの薬剤より2から10倍以上も人間のアミロイドβタンパク質に結合することを発見した。
これは、この物質がアルツハイマー病に関連した早期の脳の変化を検出する可能性がより高いことを意味する。なぜなら、この物質にはアミロイドβのより小さい塊を検出する能力があるからである。
研究者らは、更に検査した。ある検査では、アルツハイマー病が原因死亡した患者、他の原因(コントロール群)で死亡した、そして疾患がなかった年齢が一致する患者からの脳切片を染色するためにこの物質を使用した。
研究チームは、Fluselenamylがアルツハイマー病患者の脳切片のなかのプラークを正確に同定した。しかしながら、コントロール群では同定しないことを発見した。
白質に差別的に結合する
ほかの検査では、研究者らは、Fluselenamylに放射性原子を挿入し、この物質と人間の脳切片中の健康な白質との間には
相互作用がほとんどないことを示した。
Sharma氏は、これは大きな利点であると述べる。なぜなら、現在使用中の承認物質の重要な難点は、それらが非差別的に白質に結合する傾向があり、スキャン上で偽陽性を生むことである。
更なる実験で、研究者らは普通のマウスとアミロイドβプラークが発症するように設計されたマウスを比較するためにこの物質を使用した。研究者らは、Fluselenamylがアミロイドβプラークに対して同様に高い精度と脳白質に対しては低い結合性を示した。
また、研究者らは放射活性のタグをつけたFluselenamylを疾患のあるマウスに注射をした際に、Fluselenamylがアミロイドβに結合して血液脳関門を横断し、PETスキャンでたらしだされることを発見した。しかし、プラークのないマウスでは、Fluselenamylは素早く脳から排出され、排せつされた。
研究者らは、現在Fluselenamylを患者で検査することを計画している。そして、その安全性を検査する試験のための申請書をすでに提出した。
長い期間では、研究者らは、Fluselenamylがアルツハイマー病を発症するリスクのある人々のスクリーニングの一環として使われるとみなしている。
「私は、Fluselenamylを使用して、アルツハイマー病早期の人々を同定し、治療の効果を評価するという仕事をもっとうまくこなしつつ、偽陰性を減らせると考えている」と、Vijay Sharma氏は結んだ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/313874.php
(2016年11月3日公開)